世界は称賛に値する

日記を書きます

新刊を読んだ4/26水

君が見たのは誰の夢/森博嗣(講談社タイガ)

ドイツで受けた精密検査でロジに不具合が見つかった。詳しく調べるため、グアトと共に日本へ帰国。情報局本部に近い病院へ入院した。そのロジの診断データが、外部に漏洩しているという。 ロジは、まったく未知の新種ウィルスに感染している可能性があり、何者かがその情報を探っていると思われた。ロジを心配して病院へ向かうグアトは、そこでロジの姉と称する女性と出会うが。

bookmeter.com

『君が見たのは誰の夢』(森博嗣/講談社タイガ)を読んだ。著者が現行で刊行を続けているシリーズのひとつ、WWシリーズの第7作目。前シリーズであるWシリーズからは、おそらく目的意識は変わっているのだろうけど(作家に対する印象から言って、目的意識やテーマが同じなら、シリーズ名は変えずにそのままにしているだろう、と想像するので)、状況自体はWシリーズからの流れを汲んでいる。歴史や出来事の起きかたもまあまあ同じ空気のもとだ。

作家に対してもうひとつ印象を挙げるなら、シリーズの流れを真っ直ぐ進ませることはない、という認識である。あれがまたここで突然やってくるというか、紆余曲折というか、水面下での動きの発露がそんなわかりやすく真っ直ぐに出てくるわけがないじゃんというか、とにかく、あ、あれとこれが、ここで、そうやって結実するんだ、と思わせられることは多い。今回も、初期作から百年シリーズやら四季やらGシリーズやらを踏まえてここでこれが結実するんだな、という驚きがあった。ここで新情報を足してきてあのストーリーの印象を再構成させてくるとは、なんて驚かされていたことが、むしろ懐かしいくらいになった。

人類の認識はまだ途上のものであって、今後のテクノロジーの進化、人類に起こる変質、我々の頭脳が持ちうる可能性、を踏まえた場合、ここに至る可能性があるだろう、ということに対する想像って、サイエンスフィクションまわりだともちろんいくつか見かけるけれど、今回、提示された認識・思考の形式は、なかなか驚異的だと思ったし、素敵だった。夢の話もよかった。人類が向かう方向もいろいろふらふらしていてよい。締めかたもな~。とてもよかった、おめでとう、としか言いようがない。

各シリーズや各作品に対してどういう構想を持っていたのか(いろいろなところで語られていることがどの程度、妥当なのかも置いておいて)、いまとなってはほんとうに謎だけど、引退後の刊行もふくめて、ここまで描いてくれたことが極めてありがたい。読めてよかった。

「うーん、抽象的だね」
僕は唸った。
「私はかつて、ヴァーチャルへシフトした人の社会を統括するシステムを想像していたけれど。ヴァーチャルを、みんなが夢を見ている空間だと捉えれば、たしかに、そんな体験の集合ではある。ただ、それが何だというのかな。そのシステムを構築することで何が生み出されるのだろう?  なにかを生産しないと、存在意義は認められない。単に平和で仲良しを体験するだけのレクリエーションとは思えない」
「夢を見ることが、新たな人格を形成する、これがすなわち、生産なのではないでしょうか?」