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2023年12月11日(月)情景の殺人者(森博嗣)を読んだ

情景の殺人者

真っ白い雪の上、胸にナイフを刺され、血を流して横たわる美女。被害者どうしに接点はなく、時期も場所も異なるが、現場の状況には類似性がある一連の殺人事件。最初の被害者の夫が撮った映画には、事件を彷彿とさせるシーンがあった。女性二人の探偵事務所に持ち込まれた浮気調査は、映画監督で舞台演出家、作家でもある彼の二人めの妻に関わるものだった。浮気の証拠を掴むための張り込み中、都内では珍しく積もるほどの雪が降り始めた。

『情景の殺人者』を読んだ。薄く積もった白い雪の上に、鮮やかな赤い血が流れるイメージから始まる殺人事件ミステリだ。比較的、想像のしやすいイメージだが、それだけ鮮烈さはお墨付きだ。Xシリーズのその後が語られるシリーズ。そしてGシリーズからも話は合流している。いずれにせよ登場人物たちのその後が語られるのは嬉しいものだなと思う。寂しさや哀しさが響いていたとしても嬉しさはやはりある。さまざまな悲喜こもごもを経てゆく登場人物たちの変節を眺めていくのはたいへん楽しい。ゆえにシリーズ物という概念が好きである。ある物語とある物語が同一平面であることが明かされると喜んでしまうのも同根だろう。

基本的にはシンプルな探偵事務所モノとして描かれるシリーズだと思っている。今回も、探偵事務所の関わりで紹介された役者の浮気調査から、舞台の稽古中に起こる雪の日の殺人事件、同一のシーンを描いていた舞台監督へのインタビュー、と話が進んでいく。格別に派手なミステリ的どんでん返しは意識的に避けられているのかなとも思う。前Xシリーズは2時間ドラマのような読みやすさ・程よさが志向されていたようなので、同じノリが引き継がれているところもあるんだろう。

ただ、死生にまつわる、悲しみ、落ち着き、静けさ、普遍性、こびりついたひとのかたちとさだめ、みたいなものが、このXXシリーズ(今シリーズ)の背景には置かれているのかなとは感じる。ところどころでしっかりスポットライトが当てられるというか。逃れられないそういったものたちの引力圏のもとでストーリーが進められていく印象だった。主要人物の小川玲子も加部谷恵美も、それぞれの哀しみを引きずり続けていて、そんなふたりだからこそ醸し出せる雰囲気が、シリーズの特徴でもある。そして、そんなふたりが死生にかかわる引力圏の中でかかわっていくからこそ、ゆっくり諦めていけるし、いつかは吹っ切ることだってできる、みたいな構造の物語だと今は考えて読んでいる。

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