- 作者: 殊能将之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/04
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (69件) を見る
《70点》
「医者がそんなこと言うわけないじゃないか。医者はただ、こんな現象は初めてです。従来の医学的常識では考えられません、と言うだけだ。それでいいのさ。医者がびっくりすればするほど、みんな奇跡の泉の霊力を信じる。医者が驚くほどだから、まさに奇跡に違いない、というわけだ。あとは奇跡の泉の霊力を科学の言葉で説明できれば、最高だろう。泉の水に含まれてるなんとか成分に効能があるとか、泉の環境が脳にやさしく働いて免疫機能を増幅するのとか、そういう説明だ」
保龍はいらだたしげに頭を振って、
「ぼくにはわからんね。奇跡を信じるのはかまわない。でも、どうして医者や科学者に説明してもらう必要があるんだ? 奇跡は奇跡でいいじゃないか。科学とはなんの関係もないだろう。鰯の頭を拝みたければ、たんに拝めばいいだけだ。鰯の頭を拝むと、脳内にドーパミンが分泌されると説明する必要はない」
「みんな奇跡を〈信じている〉んじゃなくて、奇跡を〈信じたい〉んですよ。信じたいけど、信じられない。だから、信じさせてくれることを熱望する。科学は格好の道具になる」