世界は称賛に値する

日記を書きます

美濃牛(殊能将之)P.638

美濃牛 (講談社文庫)

美濃牛 (講談社文庫)

《70点》

「医者がそんなこと言うわけないじゃないか。医者はただ、こんな現象は初めてです。従来の医学的常識では考えられません、と言うだけだ。それでいいのさ。医者がびっくりすればするほど、みんな奇跡の泉の霊力を信じる。医者が驚くほどだから、まさに奇跡に違いない、というわけだ。あとは奇跡の泉の霊力を科学の言葉で説明できれば、最高だろう。泉の水に含まれてるなんとか成分に効能があるとか、泉の環境が脳にやさしく働いて免疫機能を増幅するのとか、そういう説明だ」
 保龍はいらだたしげに頭を振って、
「ぼくにはわからんね。奇跡を信じるのはかまわない。でも、どうして医者や科学者に説明してもらう必要があるんだ? 奇跡は奇跡でいいじゃないか。科学とはなんの関係もないだろう。鰯の頭を拝みたければ、たんに拝めばいいだけだ。鰯の頭を拝むと、脳内にドーパミンが分泌されると説明する必要はない」
「みんな奇跡を〈信じている〉んじゃなくて、奇跡を〈信じたい〉んですよ。信じたいけど、信じられない。だから、信じさせてくれることを熱望する。科学は格好の道具になる」