目を擦る女(小林泰三)P.221

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

「ちょっと待てよ。仮にこの世界がシミュレーションとして扱えるとしても、その時間を逆行させるには、世界の外から誰かが操作しなくてはならないだろ」
「そんなことはない。ハードウェアの中のソフトウェアを仮想ハードウェアとして、取り扱うソフトがあるとしよう。最初のソフトから見れば、二番目のソフトは内部に存在するように見えるが、実際には最初のソフトも二番目のソフトも同じハードウェア内のメモリ上に存在する対等な存在なんだ。だから、この世界が仮想世界として扱えるなら、その中に存在するソフトウェアはこの世界と同等のソフトウェアだということになる」
「論理のアクロバットだ。単なる言葉遊びで、なんの意味もない」私は反論した。
「そうだ。仮説を立てるだけでは、何かを証明したことにはならない。仮説は実証して初めて定説として受け入れられるんだ」鰒が同意した。
「だから、何回も実証しているだろうが!」丸鋸は烈火のごとく怒り出した。「何度も何度も、俺は時間旅行が可能なことを証明したというのに、おまえたちはそのたびに、その明らかな証拠を無視して、何もなかったかのような顔をして、平気で『ターイムマスィ――ンってなんだ?』と訊いてくるんだ! 全く呆れ返って言葉もない!」