世界は称賛に値する

日記を書きます

言語表現法講義(加藤典洋)P.178

言語表現法講義 (岩波テキストブックス)

言語表現法講義 (岩波テキストブックス)

《95点》

 これは書評あるいは、ある対象をもった文章一般について言えることですが、そこでのポイントは、その対象を相手に、どれだけよい試合をしているか、ということです。
 よい試合をするには、相手が強くなければなりません。ふつうだと、勝てばいいのですから相手は弱いほうがいいのですが、この場合は、まずどこまで相手を強く育てているか、強く育てたうえで、その強い相手と勝負しているかが問われることになります。
 なぜ、わたしはこの本に勝った、この本は全然面白くなかった、その理由はこうだ、などという書評に、読んで面白いものがないか、こう考えればわかるでしょう。うーん、この本は素晴らしい、こういう感動というか、感想、これが、その本について何か書きたい、という動機になります。ですから、うーん、実にくだらない、という場合には、ふつうは、それについて書く動機自身がなくなってしまうのです。実にくだらないのに、世の中で非常に評判がいいので、そのことに怒って書く、という場合もあるでしょうが、そういう動機から書いてよいものを書くのは、そういう場合も稀にありますが、とても難しいことです。
 抵抗、というのは、電気のオームですね。Ωというマークで書きます。電熱器は、この電線の抵抗を利用したものです。ニクロム線というとても抵抗の度合いの強い線にしてありますから、電流を通るのがスムーズにいかず、熱をもつ。文章も、電線と同じで、対象のある文の場合はこの対象がどれだけ、その文のなかで、その文を書く上で、抵抗となりえているか、で、その文章の熱が作られます。
 文章を書くというのは、変わったゲームなんです。相手を育て、自分を負かすまでに強くし、その自分より強い相手に立ち向かい、自分も強くなる、そういうゲームです。相手を強くできない人は、自分も強くなれません。