世界は称賛に値する

日記を書きます

NHKにようこそ!(滝本竜彦)P.145

NHKにようこそ! (角川文庫)

NHKにようこそ! (角川文庫)

《90点》

「頭の悪い女子高生じゃないんだから」
 すると、先輩は言った。
「あたし、頭の悪い女子高生だから」
 志望校は早稲田のくせに、堂々とそんなことを言う女だった。
「ところであたしたちの問題は、どこにも悪者がいやしないってことだよね」
 そんな意味不明なセリフを、胸を張って言う女だった。
「誰も悪くないのに。バスケ部の水口君も、あたしも、もちろん佐藤君も、誰も悪い人はいないのに。だけどなぜか、いろいろなことがマズイ方向に転がっていくよね。変だよね」
「変なのは、先輩の頭でしょうよ」
「救急病院から出てきたばっかりの女の子に、そんな冷たいことを言うものじゃないよ佐藤君。……ところであのさぁ佐藤君、佐藤君は知ってる? あたしたちは何も悪くないのに、ずいぶんとむやみにいろいろ辛いことが身のまわりに起こる。それはなぜかというと、巨大な組織があたしたちに悪い陰謀をしかけているからで」
「はいはい」
「ホントだよ。このまえ風の噂で聞いたんだけど」
「……はいはい」
 頭がおかしいフリをするのが好きな女だった。それでもずいぶんと美人だったので、俺は彼女が好きだった。