【1】鬼物語(西尾維新)
- 作者: 西尾維新,VOFAN
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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忍野忍という名前は、僕達の間では既に十分に馴染んでいて、特段聞いて嬉しくなってしまうこともないし、逆に言えば、僕にとっては何の違和感もなく、胸にすとんと落ちるものである。元々あったキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという彼女の名前は、彼女にとってさえ、既に過去のものとなっているだろう。
過去。
昔。
終わったこと。
あるいは──なかったこと。
あったかどうかも、定かではないこと。
そんな風に、思い出と共に語られる何かであり、言ってしまえば今のあいつとは、何ら関係がなかったりする。
無関係。
言うまでもなく過去の自分なんてのは、ちょっとした他人よりよっぽど他人であり、自己嫌悪とはまったく違う嫌悪を抱く対象だ──たとえば僕にしたって、春休みの僕、ゴールデンウィークの僕、階段を昇る僕、母の日の僕、自転車に乗る僕、授業中の僕、全部、別人だ。
別人で、他人で、知らない人だ。
責任逃れをしようってわけじゃあない。
ましてあの頃の自分を否定しようというわけじゃあない──あの頃の僕は、あの頃の僕で、とてもよくやっていたと思う。できる限りのことを、できる限りの全力で、やっていたように思う。
ただその全力は、今の僕が思う僕の全力とは違う──きっと今の僕なら、それぞれのときに、それぞれの信念に従って、違うことをするんだろう。▼▼第二期と呼ばれる化物語シリーズの続刊。時系列がばらばらである。忍野扇が通奏低音だ。狙いや目的、醸そうとしている匂い、はあるかと思うのだけど、読み取れてないかな。ヒロイン達の意志や存在を更新しよう、進めよう、というだけではなさそうだなと感じる。なんていうあたりを、時系列の描きかたの向こうに見ているのだった。