世界は称賛に値する

日記を書きます

鏡の中の物理学(朝永振一郎)P.37

鏡の中の物理学 (講談社学術文庫)

鏡の中の物理学 (講談社学術文庫)

《80点》

 二十世紀の中ごろになってこういうようなことが、物理学で基本的な問題としてあらわれてきたのです。物理法則というのはいろんな種類のものがあるわけなんですけれども、それらの法則を鏡にうつしたとき、変るのか変らないのか、変るとすればどういう変りかたをするのか、そういうふうな、ひじょうに普遍的な問いに対して、三枚の鏡を用意せよ、そうすればミクロの法則は必ずもとにもどるであろう、という、いわば法則の法則とでもいうべきものが見出されたわけであります。そういうようなすべての物理法則、ひいてはすべての自然法則を包括して規制するような、そういう基本的なこの法則ですね。これはつまり、神様が左ぎっちょであるか右ぎっちょであるかというような、そもそも神様の性格にかかわることなのです。神様の姿を描いた絵など見ますと、厳密に左右対称に描いてあるものが多い。神様はそういうお姿のように、右と左とに差別なく働かれるものなのか、あるいは神様はやっぱりぎっちょであるのか、そういうことにかかわることなのです。しかし、いままでの話でわかりましたことは、神様は右と左の両手のほかに、時間の次元のほうに時間の手みたいなものをもっておられ、さらに粒子と反粒子の次元のほうに、もう二本手をもっておられる。そして、いまいった手、六本の手があって、神様はぎっちょどころか、六本の手を自由自在に用いられて、三枚の鏡をうまく組合わせると、ちゃんと自然法則がもとにもどる。そういうたくみな自然法則をおつくりになったのだという、それはたいへんな発見であるわけです。こういうふうな問題が、やはり、物理学の重要な研究の対象になっているわけです。