世界は称賛に値する

日記を書きます

転校生とブラックジャック(永井均)

転校生とブラック・ジャック―独在性をめぐるセミナー (双書・現代の哲学)

転校生とブラック・ジャック―独在性をめぐるセミナー (双書・現代の哲学)

P.176

先生――だれか一人に「賛成」してしまようなことだけは、絶対にやめてほしいね。対立する考えをしている人たちの、対立する主張方向を、すべて同時に深めていくような仕方で、思索してほしいね。ぼく自身もできるかぎりそうするように努めてきたし、これからもそうするつもりだ。この本も、各人が議論を通じてそれぞれ自分の哲学を発展させていくように構成したつもりだよ。複数の哲学が、相互に相手を含み込みつつ同時に生成していくさまを描きたかったんだよ。ここには、少なくとも、C哲学、D哲学、E哲学、F哲学、G哲学、という五つの相互に対立する哲学説を同時に展開してみたかったんだ。だから、ぼく自身が今後どの哲学的傾向を発展させていくかはまだわからないけど、どれを発展させるにせよ、それを排他的に主張しているわけではないんだよ。その方向の思考の可能性をたまたま思いついただけなんだ。
学生A――でも、そういうふうに考えていくのって、すごく難しいんですよ。自分が気に入った主張にすぐ共感してしまって、気に入らない主張をすぐに反駁したくなってしまうんですよ。
先生――それはね、むしろ、逆にするように心掛けるといいね。最初に自分が気に入らなかったほうの主張を擁護して、気に入ったほうの主張を論駁できるような議論を見つけだすように、できるかぎり努力すべきだと思う。それが、およそものを考えるということのコツだし、そのほうがずっと楽しいよ。