世界は称賛に値する

日記を書きます

渋谷MALZEN&ジュンク堂

【1】鬼物語(西尾維新)

鬼物語 (講談社BOX)

鬼物語 (講談社BOX)

 忍野忍という名前は、僕達の間では既に十分に馴染んでいて、特段聞いて嬉しくなってしまうこともないし、逆に言えば、僕にとっては何の違和感もなく、胸にすとんと落ちるものである。元々あったキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという彼女の名前は、彼女にとってさえ、既に過去のものとなっているだろう。
 過去。
 昔。
 終わったこと。
 あるいは──なかったこと。
 あったかどうかも、定かではないこと。
 そんな風に、思い出と共に語られる何かであり、言ってしまえば今のあいつとは、何ら関係がなかったりする。
 無関係。
 言うまでもなく過去の自分なんてのは、ちょっとした他人よりよっぽど他人であり、自己嫌悪とはまったく違う嫌悪を抱く対象だ──たとえば僕にしたって、春休みの僕、ゴールデンウィークの僕、階段を昇る僕、母の日の僕、自転車に乗る僕、授業中の僕、全部、別人だ。
 別人で、他人で、知らない人だ。
 責任逃れをしようってわけじゃあない。
 ましてあの頃の自分を否定しようというわけじゃあない──あの頃の僕は、あの頃の僕で、とてもよくやっていたと思う。できる限りのことを、できる限りの全力で、やっていたように思う。
 ただその全力は、今の僕が思う僕の全力とは違う──きっと今の僕なら、それぞれのときに、それぞれの信念に従って、違うことをするんだろう。

▼▼第二期と呼ばれる化物語シリーズの続刊。時系列がばらばらである。忍野扇が通奏低音だ。狙いや目的、醸そうとしている匂い、はあるかと思うのだけど、読み取れてないかな。ヒロイン達の意志や存在を更新しよう、進めよう、というだけではなさそうだなと感じる。なんていうあたりを、時系列の描きかたの向こうに見ているのだった。