四季 夏(森博嗣)

四季 夏 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

 クリスマスツリーが、四季の部屋の中にあった。父親が買ってきたものだった。スタッフが飾り付けをしてくれた。電飾が瞬いている。赤、緑、黄色。目を細めて、その映像をぼかす。記憶を曖昧にする方法はないものだろうか。消すことができなくても良い。わからなくしてしまえば良いのだ。別のものと合わせるとか、無理に攪拌するとかして、原形を留めないまでに加工してしまえば、つまりは消えたことと等しい。
 なるほど……。
 確かに、一時凌ぎにせよ、有効な方法ではある。
 一度試してみよう。
 これまで、時間や空間をあまりにも無視しすぎたかもしれない。もっと、周囲に定着し、もっと多くの関係を結ぶべきかもしれない。ネットワークの安全性は、その方が高まるだろう。洗練されたものとは、つまりはガラスのように脆いものだ。
――P.183