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日記を書きます

ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則(ジェームズ・C・コリンズ)

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則

《95点》
P.135

 本を読み進めると、気持ちが暗くなっていった。やりきれなくなるほど暗い本なのだ。いつ終わるともしれない苦難が続き、収容所側は残忍だ。やがて、少しずつ見えてくるものがあった。「自分はこうして、暖かく快適な研究室に坐って、美しいスタンフォードのキャンパスを眺めながら、美しい土曜日の午後をすごしている。この本を読んで気分が暗くなっているが、自分は結末を知っているのだ。収容所から釈放され、家族との再会を果たし、アメリカの英雄になり、後半生をこの美しいキャンパスですごし、哲学を研究している。それを知っているのに気分が悪くなるのなら、収容所に放り込まれ、結末がどうなるかも知らなかった本人は、いったいどのようにして苦境に対処したのだろうか」
 わたしの質問に、ストックデールはこう答えた。「わたしは結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後にはかならず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事にし、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにすると」


 わたしは何も言えなくなった。教員クラブに向かって、ゆっくりと歩いていた。ストックデールは繰り返し受けた拷問の傷が癒えず、曲がらない膝をかばって足を丸く回転させながら、ゆっくりゆっくりと歩いている。百メートルほど歩いたころ、わたしはようやく次の質問をした。「耐えられなかったのは、どういう人ですか」
「それは簡単に答えられる。楽観主義者だ」
「楽観主義者ですか。意味が理解できないのですが」わたしは頭が混乱した。百メートル前に聞いた話とまったく違うではないか。
「楽観主義者だ。そう、クリスマスまでには出られると考える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると、復活祭までには出られると考える。そして復活祭が近づき、終わる。つぎは感謝祭。そしてつぎはまたクリスマス。失望が重なって死んでいく」
 ふたたび長い沈黙があり、長い距離を歩いた。そしてストックデールはわたしに顔を向け、こう言った。「これはきわめて重要な教訓だ。最後には必ず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない」
 わたしは、楽観主義者をさとすストックデールの姿を頭のなかで思い描き、その像がいまだに消えることがない。「クリスマスまでに出られるなんてことはない。その現実を直視しろ」