世界は称賛に値する

日記を書きます

他者の声 実在の声(野矢茂樹)

4.他者の言葉

他者の声 実在の声

他者の声 実在の声

P.68

 ――あいだに「意味」のようなワン・クッションをおくと、コミュニケーションでだいじなことは相手の発話の「意味」を探り当てることだってなるでしょ。そうなっちゃうと、話し手は自分の意味規則を探り当てられるような適当なヒントを与えて、それで自分の意味するところを相手に分かってもらうってことになる。そうすると、その「意味」に到達するための規則は人それぞれ、さまざまでいいってことにならない? だって、意味が伝わればいいんだから。
 なるほど、意味がコミュニケーションの、いわば「通貨」になっているとすると……、そうか、日本語と英語で同じ「意味」が表せるんだったら、「意味」そのものは何語でもないわけで、そうしたら、そういう言語中立な「意味」が伝わりさえすればいいんだったら、話し手と聞き手は別に違う言語を使っていてもいいわけだ。ただ、その「意味」に到達するルートさえ用意しておけば。
 ――それに対して、もしゲームのようなものだとすると、中間のワン・クッションがなくなって、プレイヤーは言葉そのものを同じ規則に従ってやりとりすることになる。そうだとしたら、「君の規則は私のと違う」なんて澄ましてはいられない。
 ようやく話が見えてきたよ。「解釈モデル」対「ゲーム・モデル」だな。