- 作者: 京極夏彦,FISCO
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2003/06/22
- メディア: 文庫
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《★★★★》
「又さんはソレ、その口先で他人を惑わすじゃねェか。あんたは語りで騙るでやしょう。あっしはね、この算盤玉で騙るンでやすよ」
パチリ。
ふん、と又市は感心したような呆れたような声を出してから、怪訝な顔で馬の尻を軽く叩いた。
「まァ、解らねえでもねえがな。世の中ァ語ったようになるモンだ。語ったモン勝ちだ。赤を白と言いくるめるぐらいは簡単なことだがな。しかし奴が幾ら馬ァ呑むと語ったって、こりゃ呑めねえぞ」
――P.297
▼短篇集である。以前に戴いた。読んでいない京極夏彦作品、というものを、いくつか残しておきたがっているのだと思う。だから、ゆっくり読んでいる。短編小説を読むときには、切り取りかた、を意識しまうところがある。つまり、長編を読むときにはあまり意識していない。断片的な雰囲気、が少ないからだろう。最初から最後までが描かれているように思える、わけだ。久しぶりに一篇読んでみた。塩の長司。おもしろかった、と、躊躇なく言える。だが同時に、比較的つまらなかった、とも言える。前篇の『舞首』と『芝右衛門狸』が『比較的』おもしろかったからだ。騙しに――妖怪化に、物足りなさを感じてしまったようだ。驚きはあった。伏線と解明、という軸では、素敵だった、と言える。