世界は称賛に値する

日記を書きます

四季 夏(森博嗣)

四季 夏 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

「それも無関係です」各務は首をふった。「よくわかりませんが、そういうものなのです。人を愛することは、うーん、自分が死んでしまうことと、大差がありません」
「では、どうしてそんな無意味な方向へ力を注ぐのですか?」
「申し訳ありません、私は……」各務は言葉に詰まった。何か、彼女の感情に響くところがあったようだ。「その、結局は、私自身のことしか考えられない人間なのです。こんな因果な仕事をしていますが、これも、自分が我が儘でいられるということが、主たる理由です。彼が私のことをどう思っていようと、私には関係ありません。私は、その……、その一時の、その一夜だけの時間を手に入れた自分に酔うだけです。時間も、社会も、それに、彼さえも、私にとっては、単なる背景に過ぎません」
――P.175