世界は称賛に値する

日記を書きます

ヴぁんぷ!(成田良悟)

ヴぁんぷ! (電撃文庫)

ヴぁんぷ! (電撃文庫)

▼成田良悟氏は、ライトノベルと呼ばれるエリアで活躍中の作家だ。私の観察した範囲では、基本的にかなり高く評価されているようである。その証拠と言えるかどうかはわからないが、デビュー作『バッカーノ!』はシリーズ化され、今でも絶賛継続中だ。私も以前に一巻を読んだ。確かにおもしろかったけれど、とにかく滅茶苦茶おもしろい!と絶賛できるほどのレベルではないかな、と感じた。だから、世間的な評価に対して、多少違和感を覚えていたと言ってもいいかもしれない。けれど、今回これを読んで納得がいった。違和感が払拭された、と言ってもいい。確かにおもしろい。評価されるのも当然だな、と思えるほどに、おもしろかった。▼成田良悟氏の書く物語は、基本的に、いろいろな思惑を持った人間(まあ人間とは限らないが。特に今回は)たちの錯綜劇、というスタイルをとる。つまり、主人公、と言われるような存在も、基本的にはいない。少なくとも、この人物が中心に位置しているのだな、と思えるような描写が見えることは少ない。今回の主人公(あとがきで主人公って言ってたからたぶんそうなんだと思う)である『子爵』にしてもそうだ。主人公にはあまり見えないな、と思える。まあ子爵に関して言えば、外面的な問題もあるのだろうけど。▼二作だけ読んで言うのもなんだが、垣間見える作者の思想が好きだ。けれど、実際に作者がそれを信奉じているのかどうかはわからないし、たとえ信奉していても、実践しているとは限らない。私の場合、小説家が素敵な信念を小説で描いていると、いつもそれを考えてしまう。もし実践しているのならば、それは素晴らしいことで、そんな素晴らしい人にいつか会ってみたいと思うからだ。でも、その可能性は低そうだ、とも思ってしまう。それは、前向きでカッコイイ歌詞の歌を聴いて、いい歌詞だよね、なんて言う人間はたくさんいるけれど、その歌詞が目指しているように生きよう、と思って実践するような人間はあまりいないようだ、といった判断からの類推である。▼不思議に物語自体のことがあんまり思いつかないな。とりあえず、錯綜劇の持つ機能が、私に対して『バッカーノ』一作目よりもうまく働いたのは確かだろう、と思う。後半の場面展開がとても楽しかった。そして、主人公の持つ異質さと紳士さも、私がおもしろいと感じた理由のひとつだと思う。おかしなものと紳士的な信念はとても好きだからだ。