世界は称賛に値する

日記を書きます

創るセンス 工作の思考(森博嗣)を読み終えた

創るセンス 工作の思考 (集英社新書 531C)

創るセンス 工作の思考 (集英社新書 531C)

▼▼改めてだけど、著者の知性のありかたが、好きである。著者の小説を読んで物語や描写の隙間から読み取ろうとしていた。のを、引退間近に整えてもらった、というか、よりステップアップさせてもらった、というか、まあ嬉しい限りってことである。▼▼滅茶苦茶好きなところの秋田禎信さんが、実は愛の話ばかり書いてるのではないかなー、って感じているように、同じくらい好きなところの森博嗣さんは、実は夢の話ばっかり書いてるのではないか、って今は思う。最初はわからなかったな。でも今はわかると思える。

 一般に、普通の工作における問題解決は、プログラミング時のそれよりも数段難しい。きっちりと割り切れない複雑さがつきまとうからだ。多くの場合、原因は一つではない。というよりも、上手く機能する状態とは、多くの影響要因のばらつきがトータルとして一線を越えていないだけである。偶然にもトラブルが表れないだけ、と考えた方が良い。たまたまそれらの要因の一つが少し大きくなると、トータルとして一線を越えてトラブルが発生する。しかし、そのときに変化したものが主原因であるかどうかはわからない。基本的に、こういったメカニズムを想定して臨んだ方が安全である。
──P.110

 ただ、時間が確保できても、単なるルーチンワークになってしまっては意味がない。短い時間を有効に使うために、「毎日が新しい挑戦である」といった姿勢でいることが必要だ。大袈裟かもしれないが、そういう気持ちで臨むと効果がある。頭ではわかっていても、これはなかなかに難しい。自分をどうやって鼓舞すれば良いか、という問題は、いろいろな方面で「人の生き方」「成功の方法」といったタイトルになって語られ続けているテーマだ。
──P.157

 抽象的な言葉なら書いたり話したりできる。感動的な言葉を並べることだって簡単だ。しかし、現実の人生も、現実の工作も、はるかに多種で、複雑で、言葉とはまったく反対といっても良いくらいである。結局、「言葉にまとめられるもの」ではない。そんな単純なものではない。言葉にして納得することは、諦めるよりは多少ましかもしれないけれど、ほとんど同じだといっても過言ではない。それこそ、委員会がまとめる報告書がその典型である。だから逆に、自分に常に言い聞かせる必要がある。「まとめるな、単純化するな」と。
──P.157

 こういったことを分析し、言葉で表現した人はあまりいないだろう。言葉にすると、「神様」なんて滑稽な表現になってしまいがちだ。しかし、人に通じる言葉でなくてはいけない。格好をつけるために書いているのではないのだ。言葉を尽くすことも、また工作と同じである。
──P.195

《96点》