- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/11/16
- メディア: 文庫
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無駄な話でも、話すという行為に意味がある。言葉を交わしている、つまり送信と受信が可能である状況を確認する意味はある。
人は、話すことで、通信の確認をしているのだ。
あるいは、手を握ったり、躰を寄せ合ったりするのも、これと同じ確認作業なのだろうか。
そういうことか。
何故、こんなに人はコミュニケーションを欲しがるのか、しかも、話したがっているように見えるのに、その実は、話のほとんどを認識していない。内容をすぐに忘れてしまう。話だけではない。歩いたり、食べたり、人と会ったり、すべて、結果ではなく、過程に価値を見出そうとする傾向にある。
こういった人間全般に関する傾向を、これまで四季はほとんど問題にしなかった。自分には関係のないことであって、それは、つまり木の葉がどのように風に舞うのか、川の流れがいかにして砂を運ぶのか、といった問題よりも考える価値のないものだと思えたのだ。法則性が見出せない対象の平均的な傾向を把握したところで、汎用的な価値は生じない。
おそらくは、これも自分自身を確認する行為に帰着するのだろう。他人をこれほど意識したことは、かつてないこと。他人にこれほど依存しようと欲したことも、一度もない。
――P.195