四季 夏(森博嗣)

四季 夏 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

 人はチェスの駒のようには動かない。
 しかし、動き方にばらつきがあっても、結局行き着くところは似ている。本人がここで良いというところで落ち着く。本人が望まなくなるまで移動を続ける。
 自分自身がゲームの世界の中にいるような、そんな感覚がわき上がってきた。道筋があって、進むべき道があることは、この上ない幸せだ、と彼女は感じた。矛盾を抱えながらも、それほど嫌な気分がしないのは、つまりは生きている目的に近い行動だからだろうか。ハチが花の蜜を求めるように。明らかに錯覚ではあるけれど、どうしてこのような錯覚が、人間には必要なのだろう。
――P.180