四季 夏(森博嗣)

四季 夏 (講談社文庫)

四季 夏 (講談社文庫)

 僅かに一、二分のコミュニケーションだったが、これこそ、四季が何よりも頼りにしている時間だった。掛け替えのないものだと何故か感じるのである。自分でも、それが錯覚だという意識はあったけれど、それにしては、長く続いている。いっこうに色褪せる気配のない感情だった。したがって、今のところは普遍的なものだと評価できる。
 しかしどう考えても、それは矛盾を孕んでいた。人間自体が経時変化する。物体としての躰が変化する、環境が変化する、そして、おそらくは情報によって価値観も変化するだろう。それなのに、普遍的だと感じられる根拠は何か。理由などない。理由がないのに信じられるのは何故か。その点がそもそも矛盾している。他にこういった例はない。
――P.165