私の犬まで愛してほしい(佐藤正午)

私(わたし)の犬まで愛してほしい (集英社文庫)

私(わたし)の犬まで愛してほしい (集英社文庫)

 ただ、たとえば喫茶店で女性と待ち合せたとする。ぼくは待ち合せにはいつも先に行っていらいらする主義だけど、事情があって遅れたとする。そのとき、テーブルの上の灰皿に口紅のついた吸殻が一本入っているのは、どちらかというとぼくは好きである。どれくらい待ったのか、どんなふうに待ったのか、想像のてがかりになる。煙草一本分だけ彼女を理解できた気分になる。
――P.144