世界は称賛に値する

日記を書きます

火刑法廷(ジョン・ディクスン・カー)

《★★★★★》

火刑法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-1)

火刑法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-1)

「考えが甘いよ。ぼくはそうは思わないけど、どうしてまたそんな現実ばなれしたことを言い出したんだね?」とパーティントン。
「こんなことを言うとわたしをばかにして笑うだろうと思ったからよ」とイーディスはしぶい顔をして言う。「そういう考えが甘いかどうか試してみたいの。おぼえてるでしょう、ルーシー。マイルズ伯父さんが亡くなった晩は満月で、わたしたち、いいお月さんだって言ったじゃないの……あなたとマークは帰るみちみち歌をうたってたでしょう? でも不死の人間のことが頭にうかぶと……」
「なに人間だって? おいおい、どこでそんな変な言葉をおぼえたんだ?」マークはそんな言葉をはじめて耳にしたように、熱のこもった早口で言ったが、その声はそれにしてもちょっと大きすぎるようだった。
――P.138

▼おお、やっぱりすごいなあ、と思った。ジョン・ディクスン・カー氏の作品を読むのは初めてだ。やはり、と思ったのは、時間をかけて評価を乗り越えてきたものはやはりすごいもののようだ、と判断できたからだ。古典的名作、というものに胡散臭さを感じて、軽視すらしていた時期があるのだけど、なんでそんな無駄なことを……、と最近はかなり純粋に思える。勘違いだった、と判断している。先達の評価を恐ろしく軽く見積もっていたらしい。が、世の中にはたくさんすごい人がいる、と経験から学ぶことができて、だからこそ、遺産のすごさも推測できるようになった。これは嬉しいことだ。なんにせよ、本当にすごかった。章が進むたびに謎が増えて魅力が増していくあたり、溜め息ついた。