青春デンデケデケデケ(芦原すなお)

青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)

青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)

《★★★★》

 組み立て終わると、岡下は用意してあった赤いネルの布で、手が触れた跡をていねいにふき取った。そしてぼくたちはセットの前に正座して、つくづくと眺めた。ドラムは無限のエネルギーを内に秘めて、威風堂々と四畳半のまん中に鎮座していた。楽器と言うのはどうしてこう美しいのだろうとぼくは思った。
 隣に坐った岡下がこぼれる涙を右腕でぬぐった。ぼくまで泣けそうになった。
「これ叩いてもええんやろか(いいんだろうか)?」と、しばらくして岡下が言った。
「どして?」
「なんか、叩くの悪いみたいな気がすんじゃ」
「ほうじゃの」とぼくは言った。彼の気持はよく解る。「真心こめて叩くんならええんとちがうか」
――P.46

▼青春バンド小説、という言葉は確かにしっくりくるなあ、と思えた。深沢美潮氏の著作に『バンドクエスト』というものがあって、かなり好きだった。ということを思い出してしまった。あまり『青春バンド小説』という区分に含まれる小説を知らなかったからだろう。実際のところバンドには憧れを持ち続けている、と言っていい。だから、わりと羨ましく思った。派手な事件などはなく、まったりとしていながら、背後には確実に情熱とかがあって、不安定さを拭いきれない、というような気配を感じることができた。というような判断は定型句だったり常套句だったりもするのだろうか、とも思う。が、定型句や常套句であることが間違いを呼び寄せるわけでもあるまい、と判断しておく。最近思うのだけど、こういう『情熱と停滞の混じり合ったすっきりしなさ』を表現することのほうが難しかったりするのだろうか。だとしたら基準を変えないとなあ、とか考えてしまった。