ゲド戦記1 影との戦い

ゲド戦記 1 影との戦い (ソフトカバー版)

ゲド戦記 1 影との戦い (ソフトカバー版)

  • 作者: アーシュラ・K.ル・グウィン,Ursula K. Le Guin,清水真砂子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/04/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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《★★★★》
P.140

 後になって、この晩のことを思い出すたびに、ゲドは、もしもあの時、誰もさわってくれなかったら、そして、また、誰も自分を呼びもどしてくれなかったら、自分はあのまま逝ってしまっていたろうと思った。傷ついた仲間のからだを舐めて癒そうとするのは、もの言えぬ動物たちの本能的な知恵である。けれども、ゲドはこの時、その知恵の中に、何か自分の力と似通ったものが、何か魔法と似て深く神秘的なものがひそんでいるのを感じとった。それからというもの、ゲドは、賢くあろうとしたら、人はかならず他の生きもの――それがもの言うものであろうとなかろうと――を手許におくべきだ、と固く信じるようになった。そして、また、この時のことがきっかけになって、彼はその後、動物の目の色からでも鳥の飛び方からでも、あるいは木々のゆっくりとしたそよぎからでも、学ぶべきものは、ひとり静かに学ぼうと努めるようになった。