- 作者: 高田明典
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/01
- メディア: 新書
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P.131
「論の精密さと正しさ」は、決して一致しないとローティは考えます。「論の精密さは、その論の正しさを他人に対して説得的に主張する場合に力となるが、だからといってそれが正しいかどうかとは関係がない」という考え方です。これまでの哲学で考えられてきたような「論理的な精密さ」を追い求める方法では、目的は達成できないし、逆に「そのように精密に考える」ことが、「形而上学的な」空想の世界へと哲学を追い込んでいるのだといいます。
ローティの考え方は、「適度に正しい人たちが、適度に正しいと考える議論をすれば、それで十分」というものです。これは端的に言うならば「哲学の否定」であるとも考えられます。「論理的な精密さ」を求めていろいろ苦労してきたのが「哲学」なのですが、ローティはその「哲学の立脚点」をあっさり捨ててしまいます。哲学が「諸学の学(つまり。様々な学問分野の思考の枠組みを与えるもの)」であるという考え方そのものが、多くの「間違い」の原因なのだとローティは考えました。端的に言えば「どうせ本質的な正しさに到達することは不可能なのだから、現実的に妥当なレベルの正しさでうまくやっていくしかない」ということです。
すべてを包括してくれるような統一理論なんてものはなくて、問題にぶつかるたびに改めて頭を使って解決策を編み出していく手法のほうが有効なのではないか、と以前から考えていた。正確には、ということを考える人格が以前から存在していた、と言うべきかもしれない。人生を『ケースバイケース』という形式で捉える人格がそんな風に考えていたのだと思う。理論に疑念を持つ人格だったからだ。その人格が共感を覚えたようだった。