世界は称賛に値する

日記を書きます

英雄になりたかった

 暗闇に流れる息が白かった。もうすぐ完全な冬になるな、と思う。完全な冬。完全な季節。なんてものは実際にはどこにもない、のだけれど、でも私の中には確実に『冬』というものがあって、それが『近づいている』のは間違いないのだった。こういう感覚がもしかしたらイデアという発想の先駆けになったのかな、なんて、笑いながら適当な想像を巡らせる、夜の街を歩いていた。電車の中で成田良悟氏の『BOWWOW!』を読み終えていた。その影響で英雄について考えていた。昔は『世界を救う英雄』に憧れていた。というか、今だってきっと憧れている。なれるものならなってみたい、と感じていることがわかる。私が、理想から眼を逸らさず、真剣に生き続け、いつかおのれを誇りに思えるような人間になってみせよう、と考えるようになったのは、魔王を成敗することでなれるような安易な英雄にはなれないようだ、という諦観を習得してしまったからなのだろうな、と思う。絶対的な敵や普遍的な悪など存在しない、ということを悟ってしまった私が、ではどうしたら『英雄的なもの』になれるのか、ということを考えたときに、改めて選んだ策が、今の生き方だったのだ、と想像する。午後2時出勤。以前の職場へ向かう。人数不足と聞いて手伝いに行ったのだった。噂でヤス嬢が最後の出勤だと聞いていた。偶然その最後に立ち会うことができた。ありがたかった。わりと長い付き合いだったな、と思う。かなり世話になったな、とも思う。とても感謝している、のだが、それをきちんと伝えられなかった。残念だ。にしても『口は災いの元』という諺について考えさせられる人だったなあ、なんてことを考えてしまった。たとえ実際には『優しい人』でも、もし悪態ばかりついていれば、初見では『優しくない人』に見えてしまう、というような状態を抱えていた人だったからだ。もったいないな、と正直思っていた。いつか機会があればちゃんと話してみたいな、と思う。おせっかいとか言われそうだけどさ、と思いつつ。