バッカーノ! 1931 特急編(成田良悟)

バッカーノ!1931 特急編―The Grand Punk Railroad (電撃文庫)

バッカーノ!1931 特急編―The Grand Punk Railroad (電撃文庫)

 こういった未知の傑作の存在が、私に希望を与えてくれる、なんて言ってしまうのは言い過ぎだろうか。けれど、心底そう思うのだからそう語ってしまうのはしかたがない。成田良悟氏は群像劇作家だ。大抵の読み手にそう認識されていると思うし、実際にそれは事実だと思う。というか、事実群像劇ばかり書いているのだから、そう思わないほうがおかしい。ここで、しかし成田作品の魅力はそこにあるのではない、なんて言えれば展開としては美しいのかもしれないが、残念ながらあえてそう言えるほどの意力は私にはない。私もまた『群像劇であること』に魅力を感じている読み手のひとりだからだ。今回の群像劇の舞台は、特急列車『フライング・プッシーフット』。一度も止まることなく突き進む列車の中で、さまざまな思惑を持った人間たちが交錯しながら、揉めては揉めて揉めまくる物語。物語は上巻と言うべき『鈍行編』と下巻と言うべき『特急編』に分かれていて、今回私が読んだのは下巻『特急編』のほうだった。こちらは結局のところ『鈍行編』の裏側を語った物語だ。噂によって現れ、そして列車の中の人間をひとりずつ消していくという怪物『線路の影をなぞる者(レイルトレーサー)』の物語、とも言える。要するに『鈍行編』で明かされなかった謎がガシガシ明かされていくわけだけど、ああもうそれがスゲエおもしろいわけさ。成田作品の最高傑作、と言われるだけはある。無論『鈍行編』も無茶苦茶におもしろかった。そのおもしろさがあったからこそ得られたおもしろさなのだ、ということは疑いようがあるまい。鈍行編特急編を合わせて描いたからこそ生まれた『最高傑作』なのだと思う。まあ私はおもしろいおもしろいと比較的よく言うので、私の『おもしろい』という評価にはあまり信憑性がないようだ、という自覚があるのだけど、震えるほどおもしろかった、とまでは正直あまり言わない。でも、これに対しては難なく言えるな。震えるほどおもしろかったよ。特急編代表とでも言うべき殺し屋のクレアが異様なほど格好良かったことも、私の『おもしろい』を増幅させた要因だと思う。魅力的な人物が多い。魅力ある行動っていうのが何かをわかっている作者なのだろうな、と感じた。