六人の超音波科学者(森博嗣)P.115

六人の超音波科学者 (講談社文庫)

六人の超音波科学者 (講談社文庫)

 この研究施設がどの程度の規模なのか、保呂草にはまったく予備知識がなかった。そういった方面には彼の興味は比較的薄い。途中で通った悪趣味な玄関ホールや、この会場の壁を飾っている絵画を見れば、だいたいオーナの趣味がわかる。非情に安易な選択だ。おそらくは、自分で価値を決められない。だから何も考えないで値段だけで選んだ、と断言できる。残念ながら、この建物には彼が見たい品があるとは思えなかった。
 煙草に火をつけて、久しぶりに煙を吸い込む。ガラスに反射して映る自分の顔。そして、その背後に瀬在丸紅子の横顔が見えた。彼女は肘掛け椅子に腰掛けている。今夜のドレスはとてもシックで似合っている、と煙を吐き出す一瞬だけ思った。