はじめての言語学(黒田龍之助)P.224

はじめての言語学 (講談社現代新書)

はじめての言語学 (講談社現代新書)

 しかし、人はどうにも評価を下したがるところがある。何かにつけ優劣を決め、自分は有利なほうにいたいと思う。言語についてもそうで、自分が使っている言語は高く評価されたい。高い評価というのは相対的なものであるため、他の言語が低くならなければならない。
 日常的に珍しくない言語談義であるのだが、わたしは言語学を学んだものとして、こういうのに荷担したくない。わたしの母語や、付き合ってきた言語について、「そんなもの汚い」といわれればいやな感じなのはもちろんだが、「とても美しいですね」といわれても、なにも答えられない。
 自分が苦労せずに手に入れたもの、たとえば性別、人種、出身地、家柄、それに母語といったもので威張るのは卑怯である。その反対に、努力して身につけたもの、たとえば学歴、職業などと並んで外国語を自慢するのは嫌味である。